環境アセスメント学会 生態系研究部会 第6回定例会 報告
著作者 田中章
文責 中村純也(日本エヌ・ユー・エス株式会社)
著作期日 2005.08.26
■テーマ:野生動物の生息地評価-欧州における事例とGISの適用について-
■話題提供者:みずほ情報総研株式会社 エンジニアリングサービス部社会技術室 チーフコンサルタント 高橋邦彦氏
■コーディネータ:武蔵工業大学 田中章氏
■日時:2005年7月22日(金)18:00~20:00
■場所:武蔵工業大学環境情報学部3号館2階32A教室
■概要:
米国ではHEP等の評価手法の開発及び導入が進んでいるが、欧州での生態系定量評価の取組状況はあまり知られていない。今回の発表は、高橋氏がこれまでに調査してきた、英国を始めとした欧州の主要国における生息地評価事例を幾つか紹介するとともに、わが国での生息地評価におけるWebGISの有用性と課題を検討するものであった。
[欧州等における生息地評価]
英国では、開発事業に係る生息地評価を幾つかの段階で行われる。開発に当たっては、事業実施予定地において事業が可能か否かについて机上での事前検討が求められる。これは、EUの鳥類保護指令及び生息地指令に基づく国内の法令により、国内全土の15%が法的に保護されているためである。そのため、植物についてはNVC(National Vegetation Classification)を、動物についてはSSSI(Site of Special Scientific Interest)を定められており、動植物の生息地や分布を国レベルで調査し、GIS等により情報を整備している。事業が実施可能と判断された場合には動植物の現地調査を行い、生息地の価値を評価する。この結果、法的に保護が義務付けられている爬虫類やコウモリが確認された場合には、これらの生物について調査を行う。さらに、開発に当たって環境・食糧・農村地域省(DEFRA)のライセンスが必要となる。
例えば、ノーフォークにおける再開発サイトの事例では、DEFRAが事業実施予定地において事業が実施可能と判断したため、植物相及び動物相(鳥類、哺乳類等)の分布を把握するために、第1段階の現地調査が行われた。この結果、法的に保護が義務付けられている爬虫類及びコウモリの生息が確認されたために、第2段階の現地調査として特定保護生物調査が行われた。これらの結果を基に、植物群落毎に植被率(%)と生息地としての価値を点数化し、生息地評価を行っている。
西部拡張計画では、地域全体の環境をレッドゾーン(EU、国レベルで保護が求められる環境)、イエローゾーン(地域を象徴する環境、開発に当たってはミティゲーションの検討が求められる)、グリーンゾーン(生物の多様性はみられない環境)により区分し、評価を行っている。この他、騒音リスクによる鳥類の行動・個体数等への影響や粉じんによる果実への影響等を評価している事例等がある。
一方、オランダでは、生息地評価のためのツールとして独自にHSI(Habitat Suitability Index)を開発しており、GIS(地理情報システム)を活用してエコトープの地図化等を行っている。
ドイツでは、1976年に制定された連邦自然保護法(2002年に改正)に基づきエコロジーネットワークの形成が進められている。そのため、農村整備に当たって整備されるビオトープについて個別の評価のみならず、最小面積、幅、バリア効果、最大供用間隔等の適性を検討し、ビオトープ全体の連続性が確保されていることを評価している。
ヨーロッパ以外では、中国においてランドサットの画像を活用して樹冠や植生の情報を整理し、アジア象の生息地の空間的特徴をGISにより解析している例がある。
[国内]
わが国においても、GISによる生息地の情報収集・整備が国、自治体で進められており、今後全国レベルでの生息地や潜在的な生息地の評価が行われつつある。さらに、インターネットを活用したWebGISの利用がされ始めており、行政と住民との双方向のコミュニケーションにより、環境情報の共有化、一元的管理が期待されている。WebGISについても、メッシュの設定、情報の開示(希少種に係る情報、財産権)、情報の版権、互換性、品質等の幾つかの問題が残されるが、計画や政策決定における環境影響を検討するSEAのツールとしての活用も期待される。
なお、今回の発表は、高橋氏が研究者(田中章氏ほか)との共同研究として取組んだ環境省地球環境研究総合推進費(自然環境の劣化、課題番号F-1)により実施したものである。
レポーター:日本エヌ・ユー・エス株式会社 中村純也)
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